SHORT STORY「羽を整える日」
- guitar0831
- 10月20日
- 読了時間: 1分
更新日:10月21日

風の音で目が覚めた。
部屋のカーテンがゆらぎ、朝の光がそっと机の上を照らしている。
昨日までの慌ただしい時間の痕跡が、コーヒーカップの跡や開きっぱなしのノートに残っていた。
ピーターは静かに羽を広げた。
何度も風にのって飛び回った羽は、少しほこりをかぶっている。
指先で一本ずつ撫でるように整えるたび、柔らかな光が羽根の間を通り抜けた。
――飛び続けるだけが、生きることじゃない。
誰かのために、何かを創り続けることは素晴らしい。
でも、ときどき、心の羽は摩耗してしまう。
焦って飛び立とうとすると、風を感じる余裕を失ってしまうのだ。
だから今日は、羽を整える日。世界を急がず、静けさの中で、
自分のリズムを取り戻すための小さな時間を過ごす。
ピーターは、枝の上で目を閉じた。
風が頬を撫で、どこか遠くの空で小さな羽音が響く。
それは、明日また飛び立つための合図のように聞こえた。
「飛ぶために、いまは止まろう。」
そうつぶやいて、ピーターは微笑んだ。
空は、もうすぐ明るくなろうとしていた。

コメント