top of page

SHORT STORY 「言葉のソムリエ」

  • guitar0831
  • 10月23日
  • 読了時間: 1分

更新日:6 日前

ree


夜の街角に、小さなバーがある。


看板には、手書きでこう書かれている。


“Words & Wine.”


その店には、グラスではなく「言葉」を注ぐソムリエがいる。


彼の名はピーター。


客はそれぞれ、心に何かを抱えてこの店を訪れる。


「伝えたいのに、伝わらない」「言いすぎてしまった」「沈黙が怖い」


そんな人々に、ピーターは静かに問いかける。


「いま、あなたの心にある味はどんなものですか?」


涙のように苦い言葉。風のように軽い言葉。


少し酸っぱい、後悔の言葉。


ピーターはそれらをそっと混ぜ合わせ、グラスに満たして差し出す。



「焦らなくていい。


言葉は、急いで飲み干すものじゃない。


香りを確かめながら、ゆっくりと、心に沁みこませるんです。」



一口、言葉を味わうと、不思議なことに、胸の中のもやが少しだけ澄んでいく。


やがて、客は立ち上がり、微笑む。


「ありがとう。あの人に、もう一度話してみます。」


ピーターは軽くうなずきながら、グラスを磨く。


店の外には、静かな風が流れていた。


── 言葉は、心のワイン。


温度を変えれば、味も変わる。


誰かと分かち合えば、世界は少し優しくなる。


その夜も、「言葉のソムリエ」は心のグラスを磨きながら、次の言葉を待っている。

 
 
 

コメント


Recent Posts
Archive

© 2016 by Yuji -A. Proudly created with Wix.com

bottom of page